現代では3月にあたる「March(マーチ)」は、もともとは一年の始まりの月、1月でした。
古代ヨーロッパ人は太陽が真東から昇る春分を新年の始まりと考えており、あらゆる生命が新たな営みを始め、戦や農耕が始まる1月を特に重視していました。
その1月に捧げられた「March(マーチ)」という言葉は、ローマ神話の軍神マルス(Mars)に由来します。
この記事では3月の英語「March(マーチ)」の語源と、火星(Mars)・火曜日(Tuesday)・行進曲(march)の由来について紹介します。
3月の英語「March(マーチ)」の語源
3月の英語「March(マーチ)」は、ローマ神話で戦と農耕の神として崇められている「マルス(Mars)」が語源です。
マルスはローマ神話の最高神であるユーピテル(Jupiter)の息子ですが、ローマを建国したロムルス(Romulus)の父として、ローマではユーピテルよりも偉大な神として崇められていました。
紀元前753年にローマを建国したロムルスは、ロムルス暦という暦を作ります。
ロムルス暦は春分の前後、現在の3月から一年が始まり、30日または31日の月が10カ月、304日間を一年とする暦でした。
残りの約61日間は何だったかというと、当時のローマは冬の寒さが厳しく、戦も農作業もできなかったため、日付が必要ない期間とみなされていたのです。
その冬の期間が終わり、戦と農耕が始まる春は、ローマ人にとって大切な新年の始まりでした。
戦と農耕の神であるマルスは、春の訪れとともにローマに君臨するといわれており、ロムルス暦の最初の月、つまり1月にマルスの名を冠して、「Martius(マルスの月)」と名付けられました。
これが現在の英語の「March(マーチ)」の語源として受け継がれています。
1月だった「Martius」が3月になった理由
もともと1月であった「March(マーチ)」が現在3月となっているのは、あとから1月と2月が加えられたからです。
ロムルスの後を継いで第2代ローマ王となったヌマ・ポンピリウスは、紀元前713年に改暦を行い、ロムルス暦の10カ月の後ろに「Januarius(ヤヌスの月)」と「Februarius(フェブルウスの月)」を付け加えました。
冬に何もできないとはいえ、暦がないのはやはり不便だったのでしょう。
ちなみにヤヌスもフェブルウスもローマ神話の神々の名前であり、Aprilはアプリリス(Aprilis)、Mayはマイウス(Maius)という神の名に由来します。
紀元前713年の改暦の時点ではまだMartiusが1月で、Januariusは11月、Februaiusは12月でした。
一年の始まりがJanuariusとなったのは、それから約560年後の紀元前153年のことです。
ヤヌスはローマの門神であり、行動をつかさどる神であったことから、Januariusを1月とするのがふさわしいとされた、という説がありますが、おそらくはもっと現実的な理由があったと思われます。
当時は現在のスペインにあたるヒスパニアで大反乱(ヌマンティア戦争)が起きており、それに素早く対応するために、最高位の公職である執政官を新たに就任させる必要がありました。
執政官の就任は新年Martiusの15日と決められていましたが、それまで待てないということで、Januariusの1日に就任が早められることになります。
その緊急的な変更が翌年以降も継続され、Januariusが一年の始まりとみなされるようになり、紀元前45年に導入されたユリウス暦によって、Januariusの1日が正式に1月1日となりました。
このような経緯からMartiusは2か月ずれて3月となり、現在も「March(マーチ)」は3月となっています。
火星(Mars)と火曜日(Tuesday)の由来
火星の英語「Mars(マーズ)」も、軍神マルス(Mars)に由来します。
夜空に赤く輝く火星は、戦火と血を連想させることから、軍神マルスに結び付けられて「Mars」と名付けられました。
古代ローマよりもはるか昔に栄えたメソポタミアでも、戦と死の神であるネルガルの名が冠されたり、古代中国では五行説の「火」があてられたりと、赤い惑星は世界各地でまがまがしいイメージを持たれていたようです。
火曜日が火星の日であるように、曜日名も惑星の名前に基づいています。
火曜日はイタリア語で「martedi(マルテデイ)」、スペイン語で「martes(マルテス)」、フランス語で「mardi(マルデイ)」というように、「マルス(Mars)の日」の意味が今も残っています。
しかし英語では「Tuesday(テューズデイ)」と、マルス(Mars)の面影がありません。
その理由は英語の曜日名が、北欧神話の神々の名前を語源としているからです。
Tuesdayは「Try(テュール)」という神の名から来ています。
北欧神話では「Odin(オーディン)」が最高神であり、テュールはその末息子で、マルスと同じく軍神です。
オーディンとテュールの関係は、ローマ神話のユーピテルとマルスの関係に似ていますね。
ちなみに水曜日のWednesdayはオーディン(Odin → Woden → Weden → Wednesday)、木曜日のThursdayはオーディンの息子「Thor(トール)」に由来します。
金曜日のFridayも、北欧神話の美しい豊穣の女神「Freija(フレイア)」の日です。
しかし土曜日のSaturdayは、北欧神話ではなくローマ神話の農耕神「Saturnus(サトゥルヌス)」が語源。
日曜日のSundayは太陽(Sun)、月曜日のMondayは月(Moon)と、実は英語の曜日名には一貫性がないんです。
行進曲の英語「march(マーチ)」の語源
行進曲の英語も「march(マーチ)」といいますが、3月のMarchとは語源が異なるようです。
軍隊が行進するための楽曲は、遅くとも古代ギリシアの時代にはあったとされています。
しかし、ジャンルとしての「march(マーチ)」が確立されたのは、17~18世紀ごろ。
オスマン帝国の軍楽隊が、管楽器と太鼓とシンバルを鳴らしながら行進し、それを見たヨーロッパ人に強烈な印象を残したことが起源といわれています。
marchという単語はもともと、「行進する」という意味の動詞です。
その語源には主に二つの説があります。
一つは11世紀から16世紀にかけて話されていた中英語で「国境」を意味する、marchを語源とする説.
もう一つはフランス語で「歩く、足を踏み鳴らす」を意味する、marcherを語源とする説です。
3月の英語「March(マーチ)」は、「マルスの月」を意味するラテン語のmartiusが語源でした。
マルスが軍神であることから行進曲に結びつくことも考えられますが、たまたま単語が一致しただけで、語源はやはり違うのではないかと思います。